宇宙の花粉 6
次の日は水曜日で、本来ならお店はお休みなのだが、ナンシーは、新しく開発した、全段コンプリメンタリー方式の、増幅度があるのは一段だけの、音質が良かったアンプの特性をチェックするために、工房に出かけた。入り口のシャッターは二枚あるが、そのうちの片方の半分だけ開けておいた。
アンプは特性的にも申し分無かった。それで、暫くいろいろな曲を掛けて聞いていると、静之と姉の波乃が訪れて、その新型アンプの試聴会に加わった。今日は偶然、三人ともミニのワンピース姿だった。まだ午前中だった。試聴の段階で、マルチチャンネルアンプ方式にはしてないので、普通のステレオアンプだ。それで、JBLの4344に繋いで聞いていた。
何曲か聞いてから、ドビッシーのピアノ曲を掛けた。
「あら、これらの曲、あたしのデパートリー、いえ、レパートリーだわ。」
と、姉の波乃がみんなを笑わせた。
「クラシックも得意なんですの?」
「別にそういうわけじゃないんだけど、これらの曲はリクエストが多いもので。どことなく乙女心を揺さぶる趣があるため、若いカップルの男性の方がリクエストするんですのよ、彼女の恋心をかき立てようというわけで。」
そう言うと、なるほどと、三人とも笑ってしまった。確かにドビッシーのピアノ曲は、乙女心をくすぐる甘やかな旋律とリズムが多い。
波乃は職業柄、いい音の装置を聞き慣れているので、このスピーカーも当然知っている。ナンシーはサイフォンで珈琲を立ててみんなにサーヴィスした。
「このスピーカー、前々から気に入っているんだけど、重さはどれくらいあるの?」
「一本で九十キロはあるでしょう、女の人では動かせませんよ。」
「そんなに重くては、内の床板抜けちゃうわね。」
と、残念そうに波乃は言った。静之も頷いた。波乃はトイレに立った。それからナンシーと静之は、昨日の話の続きを始めた。この部屋にも映像を映し出せるパソコンが置いてある。ナンシーは動画の幾つかをCRTに映し出して、二人に見せた。
「あんた達、その話を続けるといいわ。その絵の号は何て言うの、名前ね。」
そういうと姉の波乃は席を立った。
「S・フーランと言います、あたしの画号は。」
そう答えたナンシーの声は、波乃のお尻から大きな、ブリブリブリ、バリバリバリ、ブチブチブチと、ウンチョを漏らす音と猛烈な匂いで掻き消された。波乃は数歩歩いて立ち止まり、ナンシーに振り向いて、にこやかな顔で言った。
「思い切りお漏らししちゃった、あたし、オムツブルマー穿いてるのよ、とても気分爽快よ、お漏らしするって!」
ナンシーは呆気にとられて聞いていた。妹はおしっこで、姉はウンチョスかと、驚かせられた。しかし、すぐに、
「格好いい!」
と声を掛けた。そう言う自分を女らしいと思った。すると波乃は、上半身を屈め、スカートの後ろを捲って、オレンジ色のオムツブルマーの、お尻がウンチの重みで股間に垂れ下がっている様を見せつけてくれた。ナンシーは、
「可愛い!」
と、喉を引きつらせて言った。すると、
「貴女もどう、これ。あたし安く入手出来るルート知ってるんだ、仕事上。正規のルートで買うと九千円以上するんだけど、四千円で買えるのよ、おしめ付きでね。あたし、五着も持ってるんだ、ピアノ弾きながら、ウンチョを漏らすのもおつなものよ。あたしがお漏らししても、このブルマーは漏らさないんだ、絶対。」
何か凄まじい迫力のある姉さんだなと、ナンシーは感心させられた。
「お漏らしのビブラートが効果的なんでしょう、お姉さん!」
と、静之が声を掛けた。姉は満足そうに頷いて、外に出て行った。その後を静之が追っかけて行った。
ナンシーは換気扇を回して、猛烈に臭いウンチョの匂いを外に追い出して、椅子に凭れてグッタリしてしまった。こういう人種がいることは雑誌で知っていたけど、実際に自分の身の回りに巻き付いてきてみると、他人事ではない。これはどうしたことかしら? と、吾が身を省みざるを得なかった。
これは何か、臭い、何かあるわ、きっとと、グッタリくたびれた躰を椅子に保たせて思った。探ってみようか、付き合いを止めようかしら、いや、自分にはこの街で唯一の友達ではないの、様子を見る以外にないわ、と、ナンシーは結論した。何かあるということが、ナンシーの頭にこびりついた。
ナンシーはこの、滅多に、夜間にしか見かけたことが無いと専らの評判だった暗夜美人の静之と、ちょっとは知られていたバンドに務めている姉の波乃と知り合いの仲になったということに、少なからぬ満足感を覚えて付き合ってきたが、どうも分けありの気配を漂わせるこの姉妹の性癖に、何かを感じていた。それは、ナンシーが経験したことのない性的変異を、この姉妹は持っているという朧気な予想だった。いや、実際、既にたくさんの怪異なる行動を、この姉妹はナンシーに見せている。
毒を食らわば皿までと良く言われるが、まだ彼女達が毒だと言うほどのことではないので、お友達の仲になったのだから、確かめてみようという気にナンシーを誘っていった。そこに静之が戻ってきた。二人は珈琲を入れ直して飲んだ。
「そうそう、姉からお近づきの印にこれをお渡しするようにと、預かってきましたの。」 と、静之は、取っ手の付いた紙袋をナンシーに手渡した。ナンシーが中身を取り出してみると、薄いヴァイオレットのオムツブルマーと五枚のおしめだった。新品だ。
「これ水着にも使えると姉は言っていましたから、存分に使ってね。」
と、彼女は楽しそうに言った。来るべき物が来たと、ナンシーは観念したが、いやに早いペースでことを進めるなあと、ちょっと不審に思った。でも、ナンシーはユーモアのセンスの一環かしらと思って、自分でもそれを披露しようと思い付き、紙に、「あたし達お尻合いの仲ね。」と書いて、彼女に見せると、静之はぴょんぴょんと跳ねて、喜びを表現した。そして言った。
「女の人って、よく便秘に罹るでしょう。それが四日も続くとお腹が苦しくて堪らないでしょう。それで浣腸することがよくあり、そういう時、これを穿いていれば外に出ていても大丈夫なのよ。安心してお漏らし出来るわ。それも思い切りたくさん。凄い快感よ。躰が震える程の快感よ。脳髄まで痺れちゃうから。
便秘に罹ると、便がカチカチになって、無理に出そうとすると痔になったりして痛い目に遭うし、浣腸すればそういうことにもならずに出せるでしょう。それもこれを穿いていれば歩きながらでも、電車の中でも、楽に大量に放出出来て気分爽快よ。人中で思い切り排便するって、凄いエクスタシーよ。
試してみない、今。あたし、浣腸二つ持って来たから、互いにし合いましょうよ。浣腸って、自分でやると浅くしか挿せないから、効果ないのよ、人にやって貰うと深くまで挿せるから、たっぷり時間もかけて、溜まっている便を全部出すことができるの。挿してから出るまでに二十分くらいかかるから、散歩しましょうよ、音大の庭でも。ね、いいでしょう。まず、あたしにしてくれる。」
と、静之はスカートの後ろを捲り、身を屈めて、ショーツをずり下げた。ナンシーは手渡された浣腸をアナルに奥深くまで挿し入れ、ぎゅっと全部中身を絞った。それを抜くと、急いでショーツを足先から外し、おしめを五枚股間に当てがい、彼女のブルマーを穿かせた。次にナンシーもそうされた。何か赤ちゃんになったような感覚だった。二人は外に出て、シャッターを閉め、音大へと向かった。
音大に入ったけど、まだ時間が短いせいか、催さなかったので、芝生のある小さな庭まで歩いて行き、二人はしゃがみこんだ。男子学生が、スカートの中が丸見えの二人の股間を一生懸命の目つきで覗き込んでいた。その目つきがナンシーには恐ろしくも滑稽だった。その人数が増えて来た頃、静之もナンシーも必死で堪えていたのを一気に放出した。ブリブリブリ、バリバリバリ、ビチビチビチ、シューッ、ブルンブルンと、凄まじい音を立てて、二人は大量のウンチョを漏らしてしまった。
見ていた男子学生達が、びっくりして、二人の股間を凝視したのは勿論である。二人共快感に痺れていて、動けなかった。もの凄い匂いが辺りに発散し、近くに寄って来ていた男子学生達が、鼻を摘んで後ずさりした。その匂いには、浣腸の薬の匂いも含まれているようだと、ナンシーは、いつもの自分のウンチの匂いとの違いを嗅ぎつけて思った。股間にずっしりとウンチョスの重みで、ブルマーが揺れながら垂れ下がった。
「ああっ、スーッとしたわ、便秘が治ったぜ、浣腸のお陰で。」
と言って、立ち上がった。ナンシーも立ち上がった。男子学生達は、口をあんぐり開けてびっくりしていた。
「エンガチョ君達、又遭おう!」
と、静之は女王のように言い放って、ナンシーの手を引いて、門の外へと歩いて行った。初めのうち、普通に歩いてはウンチョスが太股のゴムのところから零れるような気がして、ナンシーはいかにも歩きにくそうにしていたが、静之が普通にスタスタ歩いているのを見て、自分もそうしようと、普通に歩いたが、ウンチョスが股間やお尻で揉まれて軟膏状になり、股間やお尻にグッチョリ粘り着いて行くようだった。腰の辺りまで這い昇って来ていた。
早く家に帰って、シャワーを浴びたいと心は焦った。静之は悠々と辺りを見物しながら歩く余裕を見せているが、ナンシーは下を見て歩いていた。いつ、ウンチョが地面に落ちはしまいかと心配で。やっと、自分の家へ曲がるところまで来ると、静之の手を離し、急いで別れ、「それじゃあ、又ね。」と声を掛けて、一目散に我が家の玄関を開け、靴を脱ぎ捨てるように脱いで、揃えもせずに風呂場に急いだ、幸い誰も入っていなかった。
ワンピースとスリップを脱ぎ、それが汚れていないのを幸運だったと喜びながら、ブルマーを穿いたまま、浴室に入り、お湯をシャワーから出した。ブルマーを脱ぐと、おしめも一緒に取れ、糞まみれになっている股間やお尻や腰まで、シャワーを浴びせて、洗い落とし、石鹸でもう一度洗い流してから、足下によれているウンチョスを洗い流した。もの凄い臭い匂いで浴室は充満した。こんな臭い匂いは初めてだわと、吾ながら呆れた。蒸気がウンチョスの微粒子を含んでいるようで、まるで、汚わい溜めに漬かっている感じだった。
おしめとブルマーも洗い、躰全体を洗ってから、浴室を出て、更衣室にある洗濯機におしめとブルマーを入れ、洗剤を混ぜて、洗った。スリップとワンピースを着て、脱水機に掛けて水分を抜いたおしめとブルマーをそっと丸めて、自分の部屋のある二階まで上がり、窓の外に設えられているベランダに渡されている物干し竿にそれらを吊した。誰にも見られなかったのでホッとしが、すぐに浴室に戻って、窓を開け、自分が出した臭い匂いを追い出すのに懸命になった。何てみっともないのと自問した。
何故あの美人の姉妹は、お漏らししているところを見られることに夢中になるのかしらと、ナンシーはショーツを穿くと、書斎の机に向かって座って沈思した。まるでお漏らし攻めだわと思った。果たして誰を攻めているのかしらと、不思議だった。見る者を悩殺するために攻めるにしてはあまりに臭過ぎる。仲間にしようと、お漏らしする快楽と、それを覗かれる快感を分かち合おうと、誘っているようだわと感じた。
それは肛門期の幼児の欲求を大きく増幅して歪曲した、変態性欲ではないかしら。しかし、変態性欲と見なされる行為は、何と人間の自然な欲求に基づくものだと、後になって判明することが多いものかしらと、ナンシーは思う。浅はかな精神科医なら、「面前失禁症」とでもカルテに記すことだろう。その欲望を今、あの姉妹に見ているのだが、その原因がある筈だと思えてならないのだ。彼女達をあのような振る舞いに奮い立たせる、心の中を覗いてみたいのよと、ナンシーは思った。
静之とナンシーがしゃがんでウンチョスを大失禁している様を覗き込んでいた男子学生達は、何て、みっともない女達だと思っていたわけではなく、何て凄まじくエログロチックなことを見せつける女達だと、ペニスを引きつらせていたのだ。そうだ、男をエロスの視線を垂れ流す快楽に痺れさせてやったことは確かだ。目の保養よりかずっと強烈な、エロスを痺れさせてやったのだ、白昼堂々と。
こうして猪俣家の姉妹とナンシーは仲良くなった。ミニスカートを穿いて、オムツブルマーを穿いて、性欲でだけ行動するかの男子学生達の目の前で、お尻を見せるようにしゃがみ込み、ウンチョを大きな音を立てて大量にお漏らしするという、ナンシーにとって心青ざめる思いをしたが、静之はその時の男子学生達の、ギョッとして覗き込む野獣のような眼差しににっこり微笑んでいた。
見せる快楽は女なら誰でも持っている自然な欲求だが、ウンチョをお漏らしするところを見せるとは、かなり過激な快楽だとナンシーは思った。股間の感触は極めて悪いが、男達の反応の面白さといったらない。
ハッと両足を開いて、口を横方向に大きく開いて、ギロギロ目を輝かせて覗くのだから。男というのは正に性の前に獣の本性を剥き出しにする。そいつらにウンチョを食らわすのは確かに餌食である女の反逆である。ギャフーンと言わせることでもある。性欲の美味しそうに見えたお尻という食卓に、ウンチョを供するとは、正に、糞食らえという罠だった。そう思ってナンシーはくすくすと笑った。男共の性欲をひん曲げたようにも思った。でも、早くも糞婆かもと心配した。「糞ったれ」と罵る男の声が聞こえるようだった。
覗かせてお漏らしする女も、覗いてペニスを引きつらせて涎を亀頭から垂らす男も、昼間の人中では、醜態というのだろう。その醜態が快楽だとは、人間というものの業の深さを思い知らされるわと、ナンシーは一人黙想した。
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